伝法の八咫烏(やたがらす)ものがたり

1. ふしぎなカラス

むかしむかし、大阪の伝法(でんぽう)という川のそばに、小さな村がありました。村の人たちは、魚をとったり、船で荷物を運んだりしてくらしていました。村のまんなかには、みんなが大切にしている小さなお社(やしろ)がありました。そこには、天照大神(あまてらすおおみかみ)という太陽の神さまや、住吉大神(すみよしのおおかみ)、恵美須大神(えびすのおおかみ)がまつられていました。

ある朝、村の長(おさ)である源兵衛(げんべえ)さんが、お社のまわりをそうじしていると、森の奥から「カァ、カァ」と大きな声が聞こえてきました。見に行ってみると、そこにはとても大きなカラスがいました。よく見ると、そのカラスには足が三本もあります。

「これは、八咫烏(やたがらす)かもしれない……」

源兵衛さんは、昔おばあさんから聞いたお話を思い出しました。八咫烏は、神さまのおつかいで、迷子になった人を正しい道に案内してくれる、とてもありがたいカラスなのです。

2. 秀吉(ひでよし)さまと八咫烏

それから何年かたったある日、天下人(てんかびと)とよばれた豊臣秀吉(とよとみひでよし)さまが、たくさんの船といっしょに伝法の村にやってきました。秀吉さまは、これから大きな海をわたるので、どうか船が無事に進みますようにと、お社でおいのりをしました。

その夜、お社の神主(かんぬし)さんは、ふしぎな夢を見ました。夢のなかで、三本足の大きなカラスがあらわれて、こう言いました。

「明日、海に出る人たちを、わたしが案内しましょう。」

次の日の朝、秀吉さまたちの船が出発すると、森から八咫烏が飛び出してきて、船の先を飛びながら道を教えてくれました。おかげで、船は大きな波にもまけず、無事に目的地に着くことができました。

3. 鴉宮(からすのみや)のはじまり

秀吉さまは、とてもよろこんで、また伝法の村にやってきました。

「この村のお社は、八咫烏のおかげで、わたしたちを守ってくれた。これからは『鴉宮(からすのみや)』と呼ぼう。」

こうして、お社は「鴉宮」と名前がかわり、八咫烏が村の守り神として大切にされるようになりました。お社の中には、八咫烏の絵や木でできたカラスのかざりがつけられました。村の人たちは、八咫烏がいつも見守ってくれていると信じていました。

4. 八咫烏と村のみんな

八咫烏は、村の人たちのくらしの中で、とても大事な存在になりました。大雨で川があふれそうなとき、八咫烏の声が聞こえると、「神さまが守ってくれている」と、みんな安心しました。

ある年、村にびょうきがはやったときも、神主さんの夢に八咫烏があらわれて、「川の水で手をあらい、森の葉っぱをお茶にして飲みなさい」と教えてくれました。みんなでそのとおりにすると、びょうきはだんだんおさまりました。

5. 伝法のまちと八咫烏

伝法の村は、だんだん大きくなり、たくさんの船や人が行き来するにぎやかな町になりました。船にのる人たちは、出かける前にかならず鴉宮でおいのりをして、八咫烏の絵馬(えま)に「ぶじに帰れますように」「たくさん魚がとれますように」と願いごとを書きました。

八咫烏は、みんなの願いを神さまにとどけてくれる、やさしいカラスとして、ずっと大切にされてきました。

6. いまもつづく八咫烏のものがたり

時代がかわって、村は大きな町になりました。でも、鴉宮と八咫烏の伝説は、今も伝法の人たちに大切にされています。

ある日、都会に住む女の子が、ちょっと元気がなくて、ふと鴉宮におまいりに来ました。お社の前で手を合わせていると、森から一羽のカラスが飛んできて、女の子の前にとまりました。カラスは、まるで「だいじょうぶだよ」と言っているように、やさしく首をかしげました。

女の子は、なんだか心が軽くなって、「また来よう」と思いました。

おわりに
伝法の鴉宮と八咫烏は、むかしから今まで、ずっと人びとの願いを見守ってきました。八咫烏は、道にまよったときや、こまったときに、そっと助けてくれる神さまのおつかいです。
もし伝法の町に行くことがあったら、ぜひ鴉宮に行って、八咫烏に会ってみてください。きっと、みんなの願いをやさしく聞いてくれるでしょう。