むかしむかし、大阪の伝法(でんぽう)という川のそばに、小さな村がありました。村の人たちは、魚をとったり、船で荷物を運んだりしてくらしていました。村のまんなかには、みんなが大切にしている小さなお社(やしろ)がありました。そこには、天照大神(あまてらすおおみかみ)という太陽の神さまや、住吉大神(すみよしのおおかみ)、恵美須大神(えびすのおおかみ)がまつられていました。
ある朝、村の長(おさ)である源兵衛(げんべえ)さんが、お社のまわりをそうじしていると、森の奥から「カァ、カァ」と大きな声が聞こえてきました。見に行ってみると、そこにはとても大きなカラスがいました。よく見ると、そのカラスには足が三本もあります。
「これは、八咫烏(やたがらす)かもしれない……」
源兵衛さんは、昔おばあさんから聞いたお話を思い出しました。八咫烏は、神さまのおつかいで、迷子になった人を正しい道に案内してくれる、とてもありがたいカラスなのです。
それから何年かたったある日、天下人(てんかびと)とよばれた豊臣秀吉(とよとみひでよし)さまが、たくさんの船といっしょに伝法の村にやってきました。秀吉さまは、これから大きな海をわたるので、どうか船が無事に進みますようにと、お社でおいのりをしました。
その夜、お社の神主(かんぬし)さんは、ふしぎな夢を見ました。夢のなかで、三本足の大きなカラスがあらわれて、こう言いました。
「明日、海に出る人たちを、わたしが案内しましょう。」
次の日の朝、秀吉さまたちの船が出発すると、森から八咫烏が飛び出してきて、船の先を飛びながら道を教えてくれました。おかげで、船は大きな波にもまけず、無事に目的地に着くことができました。
秀吉さまは、とてもよろこんで、また伝法の村にやってきました。
「この村のお社は、八咫烏のおかげで、わたしたちを守ってくれた。これからは『鴉宮(からすのみや)』と呼ぼう。」
こうして、お社は「鴉宮」と名前がかわり、八咫烏が村の守り神として大切にされるようになりました。お社の中には、八咫烏の絵や木でできたカラスのかざりがつけられました。村の人たちは、八咫烏がいつも見守ってくれていると信じていました。
八咫烏は、村の人たちのくらしの中で、とても大事な存在になりました。大雨で川があふれそうなとき、八咫烏の声が聞こえると、「神さまが守ってくれている」と、みんな安心しました。
ある年、村にびょうきがはやったときも、神主さんの夢に八咫烏があらわれて、「川の水で手をあらい、森の葉っぱをお茶にして飲みなさい」と教えてくれました。みんなでそのとおりにすると、びょうきはだんだんおさまりました。
伝法の村は、だんだん大きくなり、たくさんの船や人が行き来するにぎやかな町になりました。船にのる人たちは、出かける前にかならず鴉宮でおいのりをして、八咫烏の絵馬(えま)に「ぶじに帰れますように」「たくさん魚がとれますように」と願いごとを書きました。
八咫烏は、みんなの願いを神さまにとどけてくれる、やさしいカラスとして、ずっと大切にされてきました。
時代がかわって、村は大きな町になりました。でも、鴉宮と八咫烏の伝説は、今も伝法の人たちに大切にされています。
ある日、都会に住む女の子が、ちょっと元気がなくて、ふと鴉宮におまいりに来ました。お社の前で手を合わせていると、森から一羽のカラスが飛んできて、女の子の前にとまりました。カラスは、まるで「だいじょうぶだよ」と言っているように、やさしく首をかしげました。
女の子は、なんだか心が軽くなって、「また来よう」と思いました。